アスベストの飛散防止は貸主責任

賃貸物件で使用されている建材にアスベストが使用されていることが発覚した場合、貸主は飛散防止のための対策を講じなければなりません。

しかし、アスベストを使用していることに気がつかなかった場合、知らず知らずのうちにアスベストによる健康被害が生じてしまう可能性も十分にあり得ます。

万が一に備え、アスベスト被害が発生した場合の貸主責任の責任問題についてあらかじめ理解しておきましょう。

アスベストが原因の貸主責任の範囲

賃貸物件で賃借人にアスベストによる健康被害が発生した場合、民法第717条の「土地の工作物等の占有者及び所有者の責任(土地工作物責任)」に基づいて責任が問われます。

以下に、民法第717条1項の内容を記載します。

土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
(引用:民法)

「瑕疵(かし)」とは土地や建物に欠陥がある状態を指します。つまり、賃貸物件からアスベストが飛散してしまう状態である場合、その物件は瑕疵があることになります。

アスベストの飛散が原因で健康被害が生じた場合、賃貸人は法律に基づいてその損害の賠償を負うことになるのです。

アスベストが原因で責任が問われた判例

それでは、アスベストが原因で健康被害が生じた場合に責任が問われた事例についてみていくことにしましょう。以下は、大阪地裁にて平成21年8月31日に判決が下された事例です。

吹き付けアスベストを使用した建物内で文房具店の店長の男性が働いていましたが、その男性は悪性胸膜中皮腫の診断を受け、後に自殺しました。

男性の相続人らは物件を所有する企業と貸し出した企業に対し、アスベストの対策が不十分であったとして損害賠償を求めたのです。

裁判所は、物件を所有する企業に対してはアスベスト対策が不十分であったとして、男性の相続人らに損害金を支払うよう命じました。

しかし、物件を貸し出した企業に対しては、前の会社から賃貸の権利を引き継いでからの期間が長くなく、アスベストの対策を実施したとしても男性の症状の発生を防ぐことは困難とみられたため、損害賠償の請求を棄却しました。

参考:一般財団法人不動産適正取引推進機構 RETIO判例検索システム

この判例から、物件のアスベスト対策が不十分である場合は原則として責任を問われ、損害を賠償しなければならないことが分かります。

アスベストの対策はどのように行う?

アスベスト対策において重要なことは、建物にアスベストが使用されていることが発覚した場合、即座に対策を講じることです。また、アスベストが含まれているか調査が必要な時はいずれ訪れますので、専門の業者に早めに調査をしておくことをお勧めします。

例えば、不動産取引時にはアスベスト調査が必要になりますが、日常使用している段階でも、資産除去債務の評価評価 (企業会計基準)、定期調査報告 (建築基準法)でも必要となります。

アスベストが含まれる建材は、その飛散の度合いに応じてレベル1からレベル3に分けられます。

レベル1とは建材にアスベストが直接吹き付けられているもので、最もアスベストが飛散しやすくなっています。レベル2はアスベストを含む保温材などが当てはまり、レベル1と比べると飛散は少なめですが、飛散は生じてしまいます。

飛散を防ぐための対策としては、アスベストが使用されている建材等を除去して他の建材等に交換する方2006(平成 18)年に 0.1% を超えて含有する物の製造・使用等が全面禁止され ました。それまでは、法や、建材の表面に塗膜を張ってアスベストを封じ込めたり、別の建材を張って囲い込んだりして、アスベストの飛散を防ぐ方法があります。

レベル3とは建材の中にアスベストが含まれている状態であるため、通常はアスベストが飛散することはありません。ただし、建材が破損している場合、そこからアスベストが飛散することがあるため、早めに補修する必要があります。

この場合の対策としては、アスベストが使用されていない他の建材を使用して補修する方法が効果的です。

アスベストが含まれている可能性が高い場合や、含有が発覚したら、責任問題に発展することを防ぐためにも、飛散防止の対策を即座に打つことが賢明です。

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