2020年6月5日に公布された、大気汚染防止法(大防法)は建物の改修・解体などにおけるアスベスト(石綿)の飛散防止対策を強化する目的で改正されました。
そこで今回は、庄子賢一 宮城県議会議員をお招きして対談を行い、『見えない敵との闘い方』と題し、大気汚染防止法(大防法)についての捉え方や、アスベスト除去工事事業者の在り方等をざっくばらんに語って頂きました。
(インタビューは改正前の2020年3月に実施したものです)
「アスベスト(石綿)調査の仕事が増えるの?」 「アスベスト(石綿)調査者人材の確保は?」 「改正大気汚染防止法では誰がどんな場合に罰を受ける?」 「業界の展望は?」
等、なかなか知ることの出来ない、有識者の大気汚染防止法の捉え方や業界の今後を語って頂きました。アスベスト(石綿)業界に従事している皆さまに必見の内容となっています。
アスベストニュース編集部:まず始めに先生は有志の会である『宮城仙台アスベスト安全対策を考える会』を自ら立ち上げ、その後、「特定建築物石綿含有建材調査者」を中心とした、より実務的なアスベスト事案のトータル的なアドバイザー業務を行うための『一般社団法人仙台宮城アスベスト調査者の会』の設立に寄与されたとのことですが、どのような経緯や思いで、『一般社団法人仙台宮城アスベスト調査者の会』の設立に携わられたのか、教えてください。
災害から社会全体を守っていくこと
庄子議員:きっかけは東日本大震災です。当時、もの凄く多くの建築物が倒壊したことは皆様の記憶に新しいと思います。私も現場に行きましたが、瓦礫処理や運搬には工事関係者だけでなく、ボランティアも含めて多くの方が従事され、皆さんマスクと軍手で瓦礫処理をしていました。その当時、私もアスベストに対する見識が今のようにあった訳ではありませんので、その姿に疑問を持つこともなく、むしろ、どうすれば瓦礫の処理スピードを上げられるかを思案していたほどです。
しかし『宮城仙台アスベスト安全対策を考える会』で事務局を務めてくれた野田氏を始めアスベストの専門家からの提言を受ける機会があり、意見交換をしている内に、倒壊した建築物にアスベストが含まれており、※1そのアスベストを吸うことが悪性中皮腫になる危険が高まることを知ったのです。当時、震災瓦礫の最終選別は手作業で行われ、下を向きながら作業している訳ですから、相当アスベストを吸い込みやすい姿勢で、ボランティアの方に分別をお願いしていた訳です。中学生や高校生ボランティアもたくさん来ていましたから、通常、※2アスベスト肺の潜伏期間は、ばく露から15~20年とされていますので、その方達が働き盛りになった時に、体の調子が悪くなり、アスベスト肺と診断されたとしたら、理不尽すぎますし、誰も責任を取れない訳です。
そのようなことがあって私もアスベストの危険性について勉強するようになり、被災時での適切な飛散防止対策だけでなく、平常時にしっかり調査をして、データベース管理することで緊急時のアスベスト被害を防ぐことは行政としてやるべきことではないかと考え、議会の本会議等で議題として取り上げるようになりました。その後、有志の会である『宮城仙台アスベスト安全対策を考える会』を立ち上げるに至りました。
アスベストニュース編集部:なるほど、アスベスト(石綿)対策における平常時の準備、災害時の応急対応という2つの視点が大事だということですが、具体的にはどのような取り組みが必要でしょうか。
アスベスト(石綿)ハザードマップが必要
庄子議員:災害をなくすことはできませんので、防災減災の考え方で、行政・企業や団体・地域が協力し、被害を極小化するということが命題となりますし、近年の震災を教訓にしなければいけないと考えています。
震災においてもそうでしたが、役割分担と優先順位の決定が大切です。河川で例えると、堤防を嵩上げる、遊水池を作る等、様々な対策がある訳ですが、どこから工事をするかというと、護岸近くに住宅があって、人的被害が強く想定されるところから実施する訳です。
アスベストの場合も災害とは違いますが、事前の準備が極めて重要だということを今後、社会全体で共有されなければならないと考えています。
大規模な災害が起こってから、さあ、アスベスト(石綿)含有調査をしましょうという訳にはいきませんので、平時に調査をして、どこにどのような建物があるという、ハザードマップを作っていかなければならないと考えています。
当然ながら、建物はいつかは解体するわけですので、どこにどのようなハザードがあるのか地図に落とし込まれ、工事をする場合は工事業者はその地図を基に届出をし、行政は地図の更新と監視をするということをやる時代に入ったと感じます。
もちろん、ハザードマップを作るには時間がかかりますし、大変な手間もかかりますので、一定の要件をつけて、石綿ばく露をするリスクが高く、人的被害が高いところから実施することが必要だと考えています。
アスベストニュース編集部:一方で、大気汚染防止法の改正で、注目すべきポイントはどこでしょうか。
罰則強化ではなく、トリアージュを誰がやるのかを決める時期
庄子議員:第一は石綿の含有の有無にかかわらず調査結果を都道府県等へ報告を義務付けた点でしょう。これまでも解体工事する時は、アスベストのレベル1およびレベル2があった場合に、作業内容を都道府県等に届出をしている訳ですが、調査結果の報告も義務化されることでより不適切な事前調査による石綿含有建材の見落としを防ぐことができるのではないでしょうか。
第二は、建築物石綿含有建材調査者の育成が急務だと思います。
これまでは石綿除去工事における計画書の届出や、助成金を使う場合は※3建築物石綿含有建材調査者が関与しなさいということだけだったので、調査は主に※4石綿作業主任者が経験値に則って行っていたのですが、今後は建築物石綿含有建材調査者の活躍の場が相当程度増えると考えています。
一方で、事前調査を行う一定の知見を有する者について、3年程度で30万人~40万人程度の育成に向け取り組むとされていますが、座学だけでなく実地研修も行う※5特定建築物石綿含有建材調査者は5年かけて※6 915人(公表希望者ベース)程度が増えただけで今まで何年もかけて、やっとここまでの人数になっているという現実を目にすると、一朝一夕では増えないのではないでしょうか。
第三はアスベスト調査の質の問題です。アスベストほど、法的に柔軟に変更がかかっている例は珍しいのではないでしょうか。結果として、対応が早いかわりに、想定以上に裾野が広がってしまっているというのが現状の捉え方としては妥当だと思います。法律に実態が追いついていかない事態は避けなければならないと懸念しています。K P I(Key Performance Indicator)は達成され、調査は増えても、にわか調査者による粗雑な調査が増えてしまうことは本末転倒です。
例えば、アスベストが含有していることがわかっていて適切なアスベスト除去工事をしなかった場合は元請け業者を始めとする施工会社の罰則の強化で防くことができます。しかし、アスベストが含有しているにもかかわらずアスベストが含有していないとの報告があったので、アスベスト除去工事をしなかった場合、罰則の強化では防げません。
一般的に建物の解体の場合、設計事務所の段階で調査依頼があり、その時点では元請けは決まっていません。設計事務所がアスベストの含有調査結果に基づいて、おおよその工事の仕様と発注金額が決まった後に元請け会社が決まるわけですか調査の不備があった場合の責任の所在がはっきりしないのです。
また、※6調査の主翼を担う建築物石綿含有建材調査者の多くはいずれかの会社に所属しているわけですから、所属会社に忖度をしない公正性をどこまで保てるのかも今後より検討されるべきです。
将来アスベストアナライザー等の測定機器が技術の進歩により測定基準を満たすようになった時、建築物石綿含有建材調査者に求められていることは、医療の現場において経験も知識も豊富な人材がトリアージュを行うように、アスベストが建築物のどこに含有されているのかの目当てを付ける能力であり、そのような建築物石綿含有建材調査者を育成するための法整備や体制作りが改めて必要な時期に差しかかっているのではないかと感じる次第です。
アスベストニュース編集部:最後に、アスベスト業界の中でも特に人材採用に課題のあるアスベスト除去工事行に従事している方や、この業界で働くことに興味を持っている方に向けてメッセージがあれば、お願いします。
若い人だけが従事する仕事ではない
庄子議員:アスベスト除去事業に従事している経営者にヒアリングすると、今時点でも仕事が多すぎてお断りする場合も多いのが現状と伺っています。経済面で捉えると、将来有望な業界である訳ですが、アスベスト関連の事業がやりたいという人が少ないのは、社会課題としての認識が弱いことが背景にあります。誰も悪意がなかったとはいえ、社会の至る所にアスベストが未だに使われ、広がってしまっている訳ですから、今後社会全体でこの課題が共有されなければならないと思います。
また、若い人だけが従事しないといけない仕事ではなく、建築基礎がわかっている、経験のある人に活躍の場がある事業だと思いますので、特定の年齢や性別に縛られる必要は全くないと思います。幅広い人材を募り、年齢や性別、国籍に関係なく、活躍を評価できる実力主義の組織作りを進めるべきだと思います。
いずれにせよ、建築物石綿含有建材調査者という仕事は、社会の要請に応える公共性の高い、公平性が必要な仕事でありますので、社会課題としての認知をもっと進めたいと思います。
庄子賢一議員プロフィール
※1出典 独立行政法人環境再生保全機構ホームページ
https://www.erca.go.jp/asbestos/what/higai/shikkan.html
※2出典 厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/topics/tp050729-1.html
※3 平成30年に石綿含有建材に関する規制法を所管する環境省、厚生労働省、国土交通省が連携し、多様な種類の石綿含有建材の調査を行うことができる専門家を育成するため、3省共管の調査者講習制度を創設。
※4 厚生労働省の管轄で、労働災害を防止するため、工場、建築物等の解体・改修工事現場などで、石綿を取り扱う作業については「石綿作業主任者」を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他厚生労働省令で定める事項を行わせる資格であるが、2日間の技能講習(座学)で取得できるため、実務経験は必要ない。
※5 平成30年に石綿含有建材に関する規制法を所管する環境省、厚生労働省、国土交通省が連携し、関係法令、石綿の関連疾患とリスク、建築物の構造・建材等に関する知識と、解体作業等においての事前調査にも対応した知識を習得するために設けられた制度。
※6出典 一般財団法人日本環境衛生センターホームページ 特定建築物石綿含有建材調査者講習修了者台帳
https://www.jesc.or.jp/Portals/0/center/training/ishiwata/2019syuuryousya.t3.pdf
氏名 | 庄子 賢一(しょうじ けんいち) |
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選挙区 | 宮城野 |
所属会派 | 公明党県議団 |
生年月日 | 昭和38年2月8日 |
当選回数 | 5回 |
連絡先 | (郵便番号)983-0821 |
(住所)仙台市宮城野区岩切字水分37-14 | |
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